当院では気道から肺の病気に対して専門的な検査や治療を行います。
主な対象の病気は、花粉症や咳喘息、気管支喘息と言ったアレルギーの病気から慢性咳嗽、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、間質性肺炎、非結核性抗酸菌症、気管支拡張症、慢性呼吸不全(在宅酸素療法)、睡眠時無呼吸症候群などの呼吸器の病気です。
タバコの煙など有害物質を長期に吸うことによって起こる肺の病気で、呼吸機能検査にて気流の閉塞がみられます。気流の閉塞は細い気道の病気と気腫の病気が関与して起こります。
症状は、初期には無症状か咳、痰がみられるのみですが、徐々に進行し労作時の呼吸困難が顕在化して、呼吸不全となり安静にしているときも呼吸困難を感じる様になります。
日本で推定される患者数は500万人を超えますが、実際に治療を受けているのは数十万人です。
診断は、呼吸機能検査で気道が狭くなっているかみて(1秒率が70%未満)、他の病気を除外することで診断します。
吸入薬(長時間作用型の気管支拡張薬)による薬物療法と禁煙、感染予防、呼吸リハビリテーション、酸素療法など非薬物療法を併用して行います。
気管支喘息は、気道の慢性炎症により気道が狭くなり喘鳴や呼吸困難、咳を起こす病気です。症状は良くなったり、悪くなったりと変動があるのが特徴です。特に日内変動と言われる朝や夜に症状が悪化し、日中は症状が軽くなるといった変動や運動や花粉、風邪といった要因で誘発されるのが特徴的です。
診断は、問診で喘息に典型的な症状があるか、アレルギーの体質や家族にアレルギーがあるかなど聴取し、呼吸機能検査にて吸入薬を吸う前と吸った後で1秒量が改善するか、そして他の病気を除外することで診断を行います。
治療は、吸入薬(吸入ステロイドや気管支拡張薬)と内服薬による治療を行います。特に難治性喘息では分子標的治療薬(皮下注射)を用いて治療を行っています。
症状がないときや呼吸機能検査で正常なときも、気道が敏感になっており、慢性的に炎症が持続しています。そのため、長期管理(コントローラー)治療が大切です。
肺に病気があり咳の原因が特定できる、または疑われる場合(肺炎、肺結核、肺がんなど)は、その診断と治療をおこないます。
肺に病気がみられない場合は、症状に痰が出るか出ないかで病気を考えていきます。痰が出る場合は副鼻腔炎が合併していたり、気管支拡張症があったりすることがあります。痰が出ない場合は、咳喘息やアトピー咳嗽、喉頭アレルギー、胃食道逆流症、感染後咳嗽などが考えられます。
肺に病気がないことを確認し、問診にて病気の経過や診察を行い治療にて改善するかをみて診断します(診断的治療)。
副鼻腔炎を伴っている場合は耳鼻咽喉科に受診してもらい、またマクロライド系抗菌薬を投与します。
咳喘息では吸入薬治療、アトピー咳嗽、喉頭アレルギーでは抗アレルギー薬の内服、胃食道逆流症では胃薬の内服、感染後咳嗽では鎮咳薬(咳止め)で治療を行います。
気管支拡張症とは、気管支が正常より太く(拡張)なる病気です。気管支が太くなることにより気管支表面の粘膜にある線毛が粗になり、気管支表面に細菌やウイルス、空気中に含まれる細かいゴミの様なものが付着し、それが喀痰として喀出されます。
症状としては、痰や咳、息切れがみられ、気管支炎や肺炎をしばしば起こします。進行しますと息切れや安静時の呼吸困難、呼吸不全がみられます。
副鼻腔炎や非結核性抗酸菌症などを合併することもしばしばみられます。
胸部レントゲン写真にて気管支壁が厚くなっていることや胸部CTスキャンにて気管支の拡張した像がみられ、同じ様な画像がみられる他の病気を除外することで診断されます。
痰切れの薬(去痰薬)を内服し、できるだけ気管支を綺麗に保つ様にします。また抗炎症作用を期待してマクロライド系抗菌薬を投与することもしばしばあります。非結核性抗酸菌症を合併することがしばしばありますので、合併していた場合は、非結核性抗酸菌症の治療に準じて治療を行います。
間質性肺炎とは、間質に炎症を起こす病気です。一般的に肺炎と呼ばれるのは「細菌性」肺炎を指すことが多く、間質性肺炎とは異なります。間質とは、文字通り「間(あいだ)」の組織のことで、肺においては、肺胞の壁にあたります。間質には細かい血管やリンパ管などが含まれております。何らかの理由(中には原因不明のこともあります)で間質に炎症を起こし、炎症により線維化(硬くなる)が引き起こされていきます。線維化が進行すると肺全体が硬くなり大きく息が吸えなくなってきます。イメージとしては正常の肺はゴム風船のように柔らかく膨らんだりしぼんだり出来るのに対し、間質性肺炎では紙風船の様に伸びずに膨らまないといったイメージです。
間質性肺炎の原因には様々なものがあり、外から吸入した物質により起こるもの(外因性)から体質によって引き起こされるもの(内因性)があります。
症状としては、初期は無症状もしくは乾いた咳(痰を伴わない)程度ですが、進行すると労作時の息切れが顕在化してきます。さらに進行すると安静時にも呼吸困難(息苦しさ)を感じるようになり、慢性呼吸不全に陥ることもあります。
正確な確定診断をするためには、様々な検査(血液検査、呼吸機能検査、胸部CTスキャン、気管支内視鏡検査など)が必要となり、場合によっては外科にて肺を一部切除して調べる(外科的肺生検)こともあります。
間質性肺炎の原因によって異なります。無治療で経過をみることもありますし、抗線維化薬、ステロイド、免疫抑制薬を内服することもあります。
間質性肺炎は、病態を理解するのも難しい病気で診断するのもとても難しい病気です。直接、医師に相談してください。
自然界には約40種類以上の抗酸菌がいます。その抗酸菌が何らかの理由で肺に定着して慢性の呼吸器感染症となります。水の中や土、ほこりの中にいます。抗酸菌の仲間には結核菌がいますが、結核菌とは性質が異なり(結核菌は自然界にいません)全く別の病気です。
非結核性抗酸菌症の約80%がマイコバクテリウム・アビウム、マイコバクテリウム・イントラセルラーと言う抗酸菌です。とてもよく似ている菌なので合わせてマイコバクテリウム・アビウム・コンプレックス(MAC)症と呼ばれ、良く「マック症、マック症」と言われています。元々は、痩せ型の中年女性に多かった病気ですが、最近では高齢者や男性にもみられてきており増加している病気です。
残り約20%が、マイコバクテリウム・カンサシと言う抗酸菌で、「カンサシ症」と言われています。タバコを吸っている男性に多いと言われています。次に多くみられるのがマイコバクテリウム・アブセッサスですが、とても少なくなってきます。
症状は、初期は無症状もしくは痰程度ですが、進行すると、咳、発熱、倦怠感、食欲低下、痩せ、呼吸困難、呼吸不全などがみられます。
確定診断のためには、菌の証明が必要です。自然界に存在しますので、検査途中に菌が混じってしまうことがあるため、痰の検査では2回、菌を証明します。痰で菌が見つからなかった場合は気管支内視鏡検査を行うこともあります。病状によっては胸部CTスキャン画像と血液検査の抗酸菌の反応陽性で診断をすることもありますが、あまりお薦めはしません。
菌種によって、若干治療内容が異なります。
原則、治療をすることが推奨されますが、病状や副作用によって痰切れの薬など対症療法(症状に合わせた治療)で経過をみることもあります。
肺結核は、結核菌が肺に感染して起こる病気です。感染経路は主に気道を介した飛沫核感染です。感染源の多くは、痰に菌が混じっている肺結核患者です。つまり、肺結核患者が咳をした時、咳で排出されたしぶきの中に結核菌が混じっており、それを吸い込んだヒトが結核菌に感染します。感染が成立して発病するのは30%程度です。多くは肺の病気で発症します(肺結核)が肺以外の場所で発症することもあります。全身に結核菌が散らばっている場合は粟粒結核と呼ばれます。
症状は、咳、痰、微熱が特徴的ですが、血痰、胸痛、呼吸困難、倦怠感、食欲低下などみられることもあります。初期には無症状のことも多くあります。「咳が治らない」、「痰に血が混じる」と言った症状で病院に来る人が多いです。
確定診断にて結核菌の証明が必要です。肺結核では、喀痰や胃液、気管支内視鏡などで採取した検体から菌を証明します。結核菌を証明できない場合、血液検査で結核菌の反応が陽性であることと胸部CTスキャンで肺結核として典型的であった場合に診断することもありますが、他の病気(肺がんなど)の可能性もあることや、薬剤感受性検査ができないことから、積極的に菌を証明することをお奨めします。
結核菌の薬剤感受性をみて、薬剤耐性がなければ、標準治療として、イスコチン、リファンピシン、エサンブトール、ピラジナミドの4種類の抗結核薬で内服治療を開始し、その後、イスコチンとリファンピシンの2種類に減らし、全体で6ヶ月の治療を行います。
顕微鏡で見て痰に菌がみられる場合(喀痰塗抹検査陽性)は、隔離入院が必要です(感染症法)。喀痰塗抹検査陰性で、喀痰培養のみ陽性、もしくは気管支内視鏡検査や胃液培養で結核菌が検出された場合は、通院で治療が可能です。
花粉症は、いろいろなアレルゲン(アレルギーの原因)が同定されています。
春はスギ、ヒノキ、ハンノキ、夏はイネ科、秋はキク科の花粉による花粉症がみられます。多くはスギ花粉による花粉症がみられます。アレルギーには即時型と呼ばれる数分から数十分で起こるアレルギー反応(I型アレルギー)とわりとゆっくりと数時間から数十時間で起こる遅発型と呼ばれるアレルギー(III型アレルギー、IV型アレルギー)があり、花粉症はI型アレルギーの病気に分類されます。
花粉症は、鼻の粘膜におけるI型アレルギー反応です。症状としては、くしゃみ、水鼻、鼻の粘膜の腫脹(鼻づまり)がみられ、同様に眼の粘膜にもアレルギー反応がみられると眼のかゆみや充血、涙目が出ます。
花粉が飛ぶシーズンにくしゃみ、鼻水、鼻づまりの3つの症状や眼の症状がみられることが診断に大事です。診察を行い、視診にて診断しますが、鼻水の中に好酸球がみられるか(鼻汁好酸球検査)、特定の花粉にあるか皮膚の反応をみる(皮膚テスト)、血液の反応をみる(特異的IgE抗体検査)などで診断をしていきます。
アレルギーにはいろいろな細胞や免疫反応が関係していますが、白血球の一種である好酸球や免疫蛋白の一種のIgEが重要な役割を担っています。
限界はありますが、マスクやめがねの着用など、できるだけアレルギーの原因を回避し除去することを行います。抗ヒスタミン薬の内服や点鼻、点眼薬を投与します。またステロイドの点鼻薬を併用することも多いです。中等症以上の場合は、アレルゲン免疫療法を行うこともあります。
睡眠時の無呼吸には、空気の通り道が塞がる閉塞性と脳からの指示がなくなる中枢性があります。大多数が閉塞性の無呼吸です。ここ20年で患者数は増加の一途をたどっています。特に、高血圧症、糖尿病、心不全など心臓の病気のお持ちの方、脳卒中、うつ病などの患者さんにおいて多くみられます。
症状としては、日中の眠気、熟睡感がない、疲れなどが自覚症状でみられますが、よく受診される理由は、回りの人から「寝てるとき、息止まってる」とか「いびきがすごい」など指摘されて受診されます。日中の眠気が強いことや集中力が低下することで回りからやる気がないと思われがちです。また脳卒中や心筋梗塞などの原因となりえる病気です。
診断は、睡眠時無呼吸症候群に合う症状と睡眠中に無呼吸がどれだけみられるか(無呼吸・低呼吸指数:よくAHIと略されます)によって診断します。無呼吸に伴う症状がある場合は、睡眠中の無呼吸検査にて睡眠1時間あたり5回以上の無呼吸または低呼吸がみられることにより診断されます。症状がない場合は、睡眠中の無呼吸検査にて睡眠1時間あたり15回以上の無呼吸または低呼吸がみられることにより診断されます。
なお、無呼吸と低呼吸の定義は下記となっています。
睡眠時無呼吸症候群の重症度は、無呼吸低呼吸指数で分類されています。
治療の第一は生活習慣の改善が挙がります。肥満症をお持ちの方は、生活習慣・食習慣を改善し減量することにより睡眠時無呼吸症候群が改善することがあります。また、寝ている間マウスピースを装着する方法や手術により喉を広げることもあります。睡眠時無呼吸指数が20を超えてくる場合は持続陽圧呼吸療法(CPAP:シーパップと良く呼ばれます)を行います。
もし、以下の状況になったとしたら、どのくらいウトウトする(数秒〜数分眠ってしまう)と思いますか。
最近の日常生活を思い浮かべてお答えください。
状況 | 点数 |
---|---|
座って何かを読んでいるとき(新聞、雑誌、本、書類など) | |
座ってテレビを見ているとき | |
会議、映画館、劇場などで静かに座っているとき | |
乗客として1時間続けて自動車に乗っているとき | |
午後に横になって、休息をとっているとき | |
座って人と話をしているとき | |
昼食をとった後(飲酒なし)、静かに座っているとき | |
座って手紙や書類を書いているとき |
(正常:合計10点以下)
血液の中には酸素と二酸化炭素が溶けていて、特に動脈の中の酸素濃度が低い状態を呼吸不全と呼びます。さらに二酸化炭素が多い場合をⅡ型呼吸不全と呼んでいます。呼吸不全の原因となる病気は非常に沢山あります。呼吸不全は大きく急性と慢性に分けられます。呼吸不全がみられる方に対して、酸素を補充してあげる方法を酸素療法と呼び、慢性の呼吸不全で自宅にて酸素療法を行うことを在宅酸素療法と呼んでいます。
原則、動脈から動脈血を採取し、動脈血液ガス分析を行い動脈血酸素分圧(PaO2)が60Torr(トール)より低い場合、呼吸不全とされます。簡易的に測定できる検査として指で測定する酸素飽和度(サチュレーションと良く呼ばれ、SpO2と記載されます)があります。PaO2 60 TorrはSpO2 90 %に相当します。従いまして指で測定するSpO2が90%未満の場合は呼吸不全が強く疑われます。また、安静にしているときは酸素の消費が少ないためSpO2が保たれるが、動いたとき(労作時)にSpO2が急激に下がる方もいるため労作時のSpO2の評価も行います。
呼吸不全の原因となる治療を十分に行い、それでも呼吸不全が続く場合は酸素療法の適応となります。酸素流量はPaO2が60 Torr以上(SpO2が90 %以上)になるように投与します。重要なのは、慢性呼吸不全の方は、酸素流量が多すぎると二酸化炭素が体に貯まってしまう状態(高炭酸ガス血症)となり、CO2ナルコーシスという病気になってしまう可能性があります。
CO2ナルコーシスとは、動脈血の炭酸ガス分圧が高くなり、強い眠気がみられ(傾眠傾向)、重篤な場合は呼吸が弱くなり、場合によっては呼吸が止まってしまう状態です。
他の治療は、人工呼吸管理があります。人工呼吸管理は、口から管を入れて呼吸を管理する方法(挿管人工呼吸管理)からマスクなど密着して酸素を送り込む非侵襲的人工呼吸管理があります。在宅で人工呼吸管理を行う場合は、主に非侵襲的人工呼吸管理となります。炭酸ガスが貯まってしまう慢性Ⅱ型呼吸不全の方が良い適応です。